雲隠れの家

雲隠れの家

設計:中村大補

15.04.22

昇降トライアル

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八ヶ岳南麓の旧別荘を取り壊し、全く新しい発想でつくる、別荘計画です。
 
旧別荘は40年以上前に建てられたもの。大いに集い、大いに楽しみ、思い出もいっぱい詰まっているものの、老朽化し少々危険です。役を終えた、と言うことでしょう。
 
傾斜角約13度という急斜面地です。40年前にできなかった北道路からの工事は、現在の技術では可能となりました。新別荘は傾斜の最上部に配置します。しかしここで難題。
 
北側進入道路の傾斜が13度近くもあります。工事は出来ます。家は出来ます。建て主の車両は入れません。こんなことでは本末転倒です。
 
この道路は「公道」は名ばかりで、傾斜もきつく単なる草地です。意を決してトライアルです!もちろんジムニーでしょう。昇降してみました。いざとなればロープで引き上げられるように、救助車も坂上で待機です。
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結果は、オーライです。これで安心して計画案作成にかかれます。
 
中村@PDO

15.05.01

リニアスルーな空間 ―初プレゼンテーション―

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急傾斜地での計画の場合、特別な理由がない限り、等高線と平行に長手となるようなプランが望ましいでしょう。基礎の高さが過度にならないようにするためです。それでも、傾斜角13度ともなれば、それだけではだめです。長い平面形はLDKとそれ以外の空間をスキップフロアにすると良いでしょう。LDK空間が少しでも地面に近づき、環境との交歓性に富みます。
  
別荘と言えば広々としたウッドデッキ。ただ、それを南に張り出してしまったら、せっかくの庭環境は全く室内から見えなくなります。
  
キッチン―ダイニング―リビング―庇内デッキ、これをリニアーにつなげましょう。
特等席ポイント1 キッチンシンク前から、
特等席ポイント2 ソファ座位置から、
直線的に視線がスルーします。
  
良い提案図ができました。いよいよプレゼンテーションです。
  
中村@PDO

15.05.03

外観模型

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「丹精」
本質を追求する創作活動をされていて、鋭さの中にも、ゆったりとした温かみのある、そんなご夫妻の家は「丹精」なものでありたいと思います。
  
外観の模型を作製しました。GW中にスタジオで打ち合わせです。
  
中村@PDO

15.05.09

地縄確認

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役目を終えた「雲隠れハウス」が木々の向こうに見えています。
  
今回の計画では傾斜の最上部に建てる予定です。ご家族にお越しいただき、現地で建物の配置を確認いただきました。
  
等高線と平行にするために、少し西に振った配置となる、2代目「雲隠れハウス」。環境との交歓性がより強くなり、豊かな別荘ライフを見守ってくれるでしょう。
  
細田@PDO

15.05.11

プラン打合せ ―煙の向こうに―

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PDOスタジオは室内禁煙なのです。Smoking Timeで度々打ち合わせは中断されます。テーブルにお帰りになる都度新たなアイデアが飛んで参ります。
  
知的バトルとでもいいましょうか、オーナー家族、私も細田もテンションが上がります。それでも徐々に隅々に渡って、デザインは洗練されていきます。
  
空間が豊かになるということと、コストUPとは必ずしも一致しません。そんなことを実感するひと時でした。
  
ところで、この家は古くなった別荘の立て替えです。慣習的に呼ばれていた愛称は「雲隠れハウス」。なるほど別荘とはまさしく雲隠れの家です。そんなわけで、「雲隠れの家」に変更いたします。
  
中村@PDO

15.06.04

地盤調査再び

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地盤調査は完了しました。建物を支える地盤の力は規定通りとれていました。にもかかわらず、傾斜に対して無理な配置計画をしたために、地盤改良が必要、と言う判定が出てしまいました。
  
境界線に平行にすることにこだわったことで、傾斜等高線とはずれてしまっていました。建物軸線を等高線に沿わせることで、無駄の無い基礎設計になるとともに、佇まいも自然に見える、と言うことに気付きました。オーナーご家族もそれで納得です。
  
位置がずれれば地盤の状態も変わります。当然再調査を行いました。再判定結果を待ちます。
  
木口@PDO

15.06.16

キャッチボール

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基本設計の段階では、オーナーとの息のあったキャッチボールはとても重要です。
  
インテリアパースをご検討いただいたオーナー奥様より、家具やグランドピアノを切り貼りで落とし込んだ図面での逆提案をいただきました。
  
空間のイメージを掴んでいただいている破綻のない配置計画です。
  
さっそく図面修正を進めて、今週末のご自宅での打合せに臨みます。
  
細田@PDO

15.07.01

ご自宅で打合せ

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傾斜地を活かしたスキップフロアの基本計画。空間のイメージがつかみやすいインテリアパースを作成し、ご自宅ではこちらを見ながらの打ち合わせです。
  
視線の抜けや空間の広がりが確認でき、LDKとそれ以外の空間との間の手摺形状や高さ、家具配置なども含めて、かなり詰めた打合せを行うことができました。
  
手持ちの家具・照明器具なども実際に見せていただき、アイデアを出し合いました。
  
この後、詳細見積り算出のための見積り用図面の作成に取りかかります。
  
細田@PDO

15.08.04

伐採樹確認

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現在、建物の見積りを進めています。敷地内にはたくさんの樹木があり、伐採・伐根工事も必要です。合わせてこれらの付帯工事の見積りも行います。
  
倒木の心配もあるカラマツを中心に約50本。伐採すれば敷地は明るくなり、リビング・ダイニング窓からの見晴らしも劇的にかわることでしょう。
  
細田@PDO

15.09.11

スズメバチ巣駆除

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旧山荘を久々に訪れたオーナーは不幸にもスズメバチに2ヵ所も刺されてしまいました。デッキに面するドアを開けたとたんに、いきなり攻撃されたのです。それもそのはず。ドアのすぐ脇の壁内に営巣されていたのですから。
  
いつもお願いするサイトウさんに駆除をお願いしました。一昨年前の大雪災害のせいで、蜂営巣は少ないとは言うものの、毎日大忙しとのこと。
  
壁内ではかなり巨大化していました。千匹はいたようです。立ち会った私たちも緊張しました。
  
近々始める伐採工事もこれで安心です。
  
中村@PDO

15.09.22

伐採工事

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グラップル(はさむ部分)で木を支えながら伐採していきます。人間と重機の共同作業です。
  
背高のっぽのカラマツも、職人の手にかかればあっという間です。
  
傾斜地もなんのその。もっと勾配のある場所での伐採工事も経験されているそうで、作業は滞ることなく進んでいきます。
  
鈴木@PDO

15.10.02

伐採完了

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広葉樹を残し、カラマツを中心に伐採を行いました。敷地には光が射し、違った環境をつくり出しています。
  
この風景の中にある建築であること。環境と調和して溶け込んだ雰囲気を醸し出すこと。そんな意識を持ちながら、着工へ向けた準備を進めています。
  
細田@PDO

15.10.27

床鎮めの儀

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この地に建物を建てることを神様に告げ、工事中の安全、家族繁栄を祈願しながら四方祓いをいたしました。
  
厳かな雰囲気の中、オーナーご夫妻とともに、思い出に残る地鎮祭を執り行うことができました。
  
細田@PDO

15.11.27

建物位置出し・レベル測量

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いよいよ工事着手です。あらためて測量機器を用いて、建物の正確な位置出しを行っています。
  
基準点を設定して敷地のレベル測量を行い、アプローチや外構計画を含めた計画全体の整合性を最終的に確認します。
  
傾斜地での建築では、平坦地とは違った視点や技術、全体計画の能力が求められるのです。
  
細田@PDO

15.12.11

根伐り底確認

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基礎を築くための掘削を根伐り工事といいます。大切なのは「根伐り底」です。ただ掘ればよいというわけでもなく、浅すぎても深すぎてもいけません。その「床」の確認となります。
 
地盤調査の結果では地耐力は換算n値3.0以上でした。通常の考察だと布基礎仕様になります。
 
ですが、雲隠れの家は傾斜角度13度の「急傾斜地」。傾斜に沿ったスキップフロアです。高低差がある分、基礎の施工難易度は高くなります。構造強度を考慮した結果、耐圧盤基礎構造としました。
 
「床」にスケールをあて、確認できたところで根伐り工事を進めていきます。
 
鈴木@PDO

15.12.17

プレカット打合せ

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建て方に向け、プレカットの打合せを行います。
 
プレカットとは、梁や柱の製材加工をコンピューター制御された機械で精密加工する現代工法です。かつて大工が1か月余りかけて手加工していたことがたったの数日で仕上がります。
 
現場監督、大工、プレカット入力者に緻密に設計の意図を伝え、意見交換しながら打合せは進んでいきます。
 
鈴木@PDO

15.12.27

配筋検査

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PDO社内検査を行いました。
 
根入れの深さ、各鉄筋径、配筋の間隔鉄筋とコンクリートのかぶり厚、鉄筋の継手長さ、定着長さなどなど。細かくチェックし、隠れてしまう部位を工事写真として記録します。
 
第三者機関の検査も済ませ、そのままコンクリートの打設となります。
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冬場の基礎工事はいつも以上に気を張ります。良質なコンクリートとするために、打設後の数日間はコンクリートの温度を2℃以上に保つ必要があります。対策として基礎をシートですっぽりと覆い内部では練炭を焚き暖気養生をします。
 
暖冬といえども冬は冬。侮ってはいけません。
 
鈴木@PDO

16.01.05

暖気養生

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暖冬とは言え油断できません。コンクリート打設直後はことに凍結に注意しなければいけません。
  
建物のかたちすっぽりとブルーシートでハウスにして覆いました。ジェットヒーター2台、ブルーヒーター2台、数か所の練炭を仕込み、防火のために監督は寝ずの番です。
  
中村@PDO

16.01.16

建て方はじまる

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雲隠れの家棟梁を担当するのはなかじま大工です。
 
この時期は天気予報により段取り組を優先します。どうやら週明けのお天気が怪しい・・・。
雪になるかもしれません。計画していた工程を1日前倒ししての作業に決めました。建て方と足場組の同時進行です。
 
5人の大工衆による建て方がはじまりました!地面から張りだして組まれた荷受け用のステージ。空へ「ぐん」と伸びるクレーン。真剣な面持ちで作業を行う職人たち。

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独特の空気感とどんどん成長していく姿につい見入ってしまいます。そうしてなかなか現場を離れられないのです。
 
作業は順調に進み、夕方には母屋掛けが終わりました。「雲隠れの家」、建て方初日の終了です。
 
鈴木@PDO

16.01.30

上棟の儀式―山羊タワーに歌う―

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オーナーは音楽家です。私たちには少々難解な数学図形のような音楽です。
 
大雪寒波が来る直前に無事上棟は成りました。オーナーご家族においでいただきました。この日のために作曲された上棟儀式曲「山羊タワーに歌う」。
 
4人が輪になって8音階のカラーパイプを指揮に従って頭にポコンしていきます。一周するとカラーパイプを総チェンジします。また新しい旋律を奏でます。
 
なんて厳かな儀式なのでしょう。
 
それにしても、われ関せずな感じで大工が脇で納まりの打ち合わせをしています。なんか変な光景です。
 
中村@PDO

16.02.09

防水金物検査

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構造金物と防水措置の検査を行いました。指定された締結金物で梁や柱、筋違などの木軸構造がしっかりと固定されているか確認をします。屋根・壁・床の合板も指定された釘と間隔で施工されているかチェックです。
 
工事によって隠れてしまう部分は漏らさず監理写真として記録していきます。
 
防水措置も忘れてはいけません。漏水事故が起こりやすいサッシ取付時の防水措置や、屋根からの雨水の侵入を防ぐために防水シートを貼りあげていきます。
 
保証機構の検査もなんなく終わり、順調に作業は進んでいきます。
 
鈴木@PDO

16.02.20

小さな「?」の攻略

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「雲隠れの家」では内部のボード張りを大方終え、建具枠や廻り縁などの内部造作が進んでいきます。

現場へ行く度、職人から質疑があがります。納まりや仕上げについて頭に「?」が浮かんだ時。人間、どうしても小さな「?」部分に固執してしまいがちです。そうして全体が見れなくなってしまいます。

「大きな面で空間を見ること」ぐるぐるになった頭を整理させてくれた中村の一言です。何事も全体のバランスが大切です。

さぁ、頭のモヤも晴れたことですし、木工事完了に向けて進みましょう!

鈴木@PDO

16.02.23

つながるデザイン

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エントランスから廊下へと続くうす壁は天井まで達することなく建具枠の高さに合わせました。

目線より高くすることで訪問者との視線のバッティングを防げます。また、スキップフロア下階の空間と連続したつながりがあるため太陽の光がじんわりとエントランスへと届きます。玄関ドア両脇の採光窓も相俟ってよい雰囲気です。

鈴木@PDO

16.03.31

足場解体

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足場が組まれてからの約2か月間いつも隙間から覗くように見ていました。とてももどかしかったのですが今はすっきり気分爽快です。

急傾斜地に沿うような片流れの屋根。違和感なく環境に溶け込んでいます。

外壁の板部はレッドシダーのラフソー仕上げ。本実(ほんざね)加工板を横張りしています。水平線を強調して建物全体をすっきりと魅せることができるのです。

大工工事もデッキを残すのみ。内部も仕上げ工事に入り、終盤戦へ突入です。

鈴木@PDO

16.04.28

建て主完成検査&火入れ式



現場に着くとすでにオーナーは到着していました。あれ?いつもと家の表情が違います。
なぜだろう?すぐに理由が分かりました。
オーナーの存在が加わって建物が家になったということ、だから輝いている…!パズルのピースが「かちっ」とはまったような感覚を体験しました。

早速、外廻りの検査を済ませ、建物内部の検査へと移ります。検査の前にまずは火入れ式です。ダンパーの調整や薪をくべるタイミングなどをご説明させていただきました。如何せん新品のストーブについている化学物質(さび止めのシリコンワックスです)を熱で蒸発させるわけですからいけないにおいが出ます。でもこれは、引き渡し、引っ越しの前にはどうしてもやっておかなければいけないこと。また、家に命をともすこと。しばしみな感慨にふけります。

火の状態を気にしつつ各部屋の仕上がり状況を厳しい目でチェックいただきます。とても緊張する瞬間です。

鈴木@PDO

16.05.09

ばんざい!

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「小さくてキュートな家」
嬉しそうなオーナーの口からぽろりとでたこの言葉が忘れられません。
ちょっとしたからくりのある家。
まさに「雲隠れ」の名にふさわしい家となりました。

当日は中村のバンダナとシャツのコーディネートもお祝いムードたっぷりです。
ふと見るとオーナーの靴下も…!

お引渡しといってもこれで終わりではありません。
これから永いお付き合いがはじまります。
オーナーにはまだまだやりたいことが盛りだくさん。
りんごの木とヤギタワー、楽しみにしていますね!

ひとつの区切りということで、みんなで一緒にばんざいポーズにて記念撮影いたしました。

鈴木@PDO

16.05.28

「雲隠れの家」完成!

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GWをお過ごしいただけるようにお引き渡しをしました。
雪の中をご依頼に見えられた日をまるで昨日のように思い出します。

完成の写真はまだ予定家具の搬入前です。
コンクリートのリビングルームの真ん中には、
ワインレッドのグランドピアノが置かれます。
また、オーナーが長く過ごしたドイツ時代にそろえた家具も様々に配置されます。

別棟として構想中の「山羊タワー」。
これもぜひ実現したいですね。
(完成写真;松村誠

中村@PDO